整形外科
診療内容・特色
当科は広島中央医療圏(東広島・竹原地域)における中核的急性期病院としての役割があり、外傷の症例が多いのが特徴です。また肘スポーツ障害(野球肘、テニス肘など)に対する手術も多く、県内外からたくさんの患者さんが来院されます。別表に示す通り年間約900件前後の手術を行っており、その内訳は手・肘領域が最も多く、次いで高齢化社会を反映し、大腿骨近位部骨折に対する人工骨頭置換術や観血的整復固定術、さらに首や腰の脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアなど脊椎疾患に対する手術が増加しています。変形性股関節症や変形性膝関節症に対する人工関節全置換術も積極的に行っています。また近年では骨粗鬆症に基づく骨折の予防治療にも力を入れており、平成25年からは月2回骨粗鬆症外来を行っております。
以下に当院で行っている治療について説明します。
四肢の外傷(骨折・靭帯損傷など)
交通事故や転落など高エネルギーによる外傷や骨粗鬆症を基盤とした脆弱性四肢の骨折をはじめ筋肉、靭帯、末梢神経などの損傷に対して最新の知識と技術を導入し、手術侵襲の軽減、術後外固定期間の短縮、早期リハビリ開始を目指しています。近年増加傾向にある高齢者の大腿骨近位部骨折(頸部・転子部骨折)に対しては、当院にて手術後2~3週で当院から術後回復期リハビリ病院へ転院して頂き、その病院と連携(大腿骨頸部骨折地域連携パス)して治療の継続が途切れない体制を構築しています。手外科・肘の外科(野球肘などのスポーツ障害を含む)
一般の方は“手・肘関節外科”ときくと、扱う範囲が非常に狭い特殊な分野のように思われるかもしれません。しかし整形外科のなかで指、手、手首、肘といったいわゆる手外科専門医の扱う疾患は実は非常に多いのです。代表的な疾患を以下にお示しします。
- 外傷(骨折、脱臼、腱損傷、手指の切断など):手指や手首、肘関節の骨折は日常診療において最も多い骨折のひとつです。手首の骨折(橈骨遠位端骨折)では最新の内固定材料(金具)を使用することにより、ほとんどの場合、術後のギプスを約10日前後ではずすことができます。また手指の切断や軟部組織(皮膚、筋肉など骨以外の組織)の挫滅、欠損に対してマイクロサージャリー手技(顕微鏡を用いて細い血管や神経を縫合する技術)を用いた再接着や皮弁術(離れた部位から軟部組織を移動させて欠損部を被覆したり機能を再建する方法)も積極的に行なっています。
- 末梢神経障害(手根管症候群、肘部管症候群など):手のしびれ、痛みの原因としては首が良く知られていますが、実は、手首(手根管症候群)、肘(肘部管症候群)さらに肩周囲にて末梢神経が圧迫されることが原因となっていることもよくあります。このような症状に対して神経伝達速度、筋電図など電気学的診断法に基づき客観点に評価し診断・治療を行なっております。
- スポーツによる障害(野球肘、指、手関節の靱帯損傷など):子供さんから成人の方まで、上肢のスポーツ障害、すなわち指、手、肘の脱臼や靭帯損傷、野球肘などに対して専門的な立場から治療を行なっています。これらに対してレントゲンだけでなく、CTやMRIといった最新の医療器械を用いて正確な診断を早期に行うよう工夫しています。野球肘に対する手術(遊離体摘出術、関節形成術など)においては関節鏡を利用することにより、できるだけ大きく切開せず、早期のリハビリが可能となるよう心掛けています。また術後のリハビリについては、一般の方々にも分かりやすいパンフレットを理学療法士とともに作成し、きめ細かい指導ができるよう努めております。
- 年齢に伴う障害:肘関節や親指の付け根は加齢に伴い変形しこれが原因で痛みが生じることがあります(母変形性肘関節症、指CM関節症など)。これらに対して投薬、リハビリ、注射といった保存療法や手術治療を行なっております。また腱鞘炎に対しても治療を行なっています。近年、手指や手首の腱鞘炎に非常に効果のある注射が導入され、手術しなくても治る患者さんの比率が大幅に向上しました。
- リウマチに伴う障害(関節変形や腱断裂など):手指の変形、関節の痛みに対する滑膜切除術、人工関節置換術などの手術的治療を行なっています。
脊椎疾患(腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア、頸椎症、圧迫骨折、脊髄損傷など)
整形外科外来を受診される方のなかで最も多いのは腰痛です。当科ではレントゲンをはじめ、CT、MRI といった最新の画像診断を積極的に取り入れ、正確な診断・治療を心がけています。手術においては手術用顕微鏡を導入することにより侵襲(負担)を最小限にするよう努力しております。代表的な疾患を以下にお示しします。
- 年齢に伴う障害:年齢を重ねるに従い椎間板が摩耗し椎体は変形(骨棘形成)し神経を圧迫し四肢に痛みやしびれが生じるようになります。腰椎に起こるのを腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)、頸椎に起こるのを頸椎症(けいついしょう)あるいは頸髄症(けいずいしょう)といいます。症状が進行し日常生活に支障が出ている場合には除圧術が必要となります。また骨粗鬆症による脊椎の圧迫骨折も年々増加傾向にあります。
- スポーツによる障害:若年者では椎間板の一部が出っ張って神経を圧迫する(ヘルニア)が生じ、腰痛や四肢の痛みを生じることがあります。多くは保存的に治療となりますが、麻痺が生じたりすると手術治療が必要になることもあります。思春期では脊椎の一部が疲労骨折し分離症(ぶんりしょう)が起こることがあります。
- 外傷に伴う障害:程度の軽いむちうちから四肢麻痺や膀胱直腸障害を生じる脊髄損傷などがあります。重症の場合は緊急手術で除圧術や脊椎固定術を行うことがあります。
- 感染による障害:まれに腰痛や頸部痛に発熱を伴い、内科的な異常を認めないのに血液検査で炎症を認める場合があり、MRIで椎間板や椎体に信号変化を認めることがあります。多くは安静と抗生剤加療で改善しますが、まれに手術治療が必要になることもあります。最近は少なくなりましたが結核菌による化膿性脊椎炎を脊椎カリエスと呼びます。
日本脊椎脊髄病学会指導医である宇治郷医長は脊椎手術のスペシャリストであり専門的な立場から治療を行うことが可能。
足の外科(足関節捻挫・骨折、スポーツ障害、外反母趾なども含む)
整形外科のなかで足関節や足部は体重を支える大事な部分であり、この部分の障害に対しても治療が必要な病態がいくつかあります。代表的な疾患を以下にお示しします。
- 外傷(骨折、脱臼、腱損傷、足趾の切断など):足趾や足首(足関節)の骨折・捻挫は日常診療において最も多い外傷のひとつです。足関節の骨折では最新の内固定材料(金具)を使用することにより、ほとんどの場合、術後のギプスを約7-14日前後ではずすことができます。
- スポーツによる障害(足関節の捻挫・靱帯損傷、アキレス腱炎・アキレス腱付着部炎、足底腱膜炎など):子供さんから成人の方まで、上に述べたような下肢のスポーツ障害に対して専門的な立場から治療を行なっています。これらに対してレントゲンだけでなく、CTやMRIといった最新の医療器械を用いて正確な診断を早期に行うよう工夫しています。特に足関節に対する手術(軟骨損傷、遊離体摘出術など)においては関節鏡を利用することにより、できるだけ大きく切開せず、早期のリハビリが可能となるよう心掛けています。
- 年齢に伴う障害:足関節や母趾の付け根は加齢に伴い変形しこれが原因で痛みが生じることがあります(変形性足関節症、外反母趾、強剛母趾など)。これらに対して投薬、リハビリ、注射、装具療法といった保存療法や手術治療(関節鏡、骨切り術、関節固定術、外反母趾矯正手術など)を行なっております。
- リウマチに伴う障害(足関節変形や足趾変形など):足趾の変形、足関節の痛みに対する滑膜切除術、関節固定術などの手術的治療を行なっています。
股関節疾患(変形性股関節症、大腿骨頭壊死、大腿骨頸部骨折など)
大腿骨と骨盤の繋ぎ目を股関節と言います。股関節は運動範囲が極めて広い多軸関節で歩行時には関節自体に150~300㎏もの力が加わります。この大きな負担が様々な疾患を引き起こすと言われています。
森 亮医長は多くの人工関節全置換術を執刀してきた股関節専門医であり、以下の疾患に対する様々な手術に対応可能です。
1.変形性股関節症:股関節にかかるストレスにより軟骨がすり減ってしまう病気です。わが国では寛骨臼形成不全(骨盤の屋根が浅い病気)によって生じる関節症が約80%を占めます。関節症の進行具合や年齢などにより関節温存手術や人工関節置換術が選択されます。
2.特発性大腿骨頭壊死:大腿骨頭への血行が障害され骨が壊死する病気です。壊死の範囲が大きいと体重を支えきれなくなり、大腿骨頭がつぶれてしまいます。わが国では男性はアルコール多飲、女性はステロイド内服に関連して生じることが分かっています。
壊死範囲や大腿骨頭のつぶれ具合、年齢などにより関節温存手術や人工関節置換術が選択されます。
3.大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折:大腿骨頭の軟骨の下にある骨が骨折する病気です。骨折した部分がつぶれるため大腿骨頭壊死と見間違うことがあります。高齢女性に多く発生し、脊椎の変形や骨盤の傾きなどで骨粗鬆症のある大腿骨頭に大きな力が加わることが原因ではないかと考えられています。大腿骨頭が急速につぶれていく場合もあるため注意が必要です。
4.関節リウマチ:関節の滑膜が炎症を起こし、骨や軟骨を破壊する病気です。股関節は荷重関節であるためリウマチのコントロールが悪い場合、急激に軟骨や骨が破壊されることがあります。骨盤の中心に向かって骨や関節が破壊される臼底突出が特徴的なレントゲン所見です。
5.大腿骨頸部骨折:大腿骨の根元に近い部分で生じる骨折で、わが国では年間20万人以上の方が罹患しています。70~80代の高齢女性に多いのが特徴です。大部分が軽微な転倒により生じることから、骨粗鬆症が原因と言われています。寝たきりによる合併症予防のため手術が行われることがほとんどで、骨折型により人工骨頭置換術や骨接合術(骨を繋ぐ手術)が選択されます。
【患者さまへ】
当院は東広島で唯一の総合病院であり、いろいろ持病をお持ちの方でも内科、外科を始めいろいろな科の先生と相談しながら治療を進めていくことが可能です。整形外科疾患の診断や治療方針決定のために必要な特殊検査(レントゲン、CT、MRI、超音波検査、血管造影、神経伝導速度測定、筋電図測定、血流測定など)もすべて施行できます。また、マルチスライスCT の導入により精密な3次元画像を高速で構成することができるようになりました。さらにマイクロコイルを使用したMRI撮影も可能となり、今まで撮影できなかった小さな病変も撮影できるようになりました。これらの装置は骨折治療にも応用されており、正確な病態把握に活用されています。
また、高齢化社会の到来とともに増加している、骨粗鬆症、あるいは筋肉減少症(サルコペニア)に対する啓蒙・相談も外来にて行っております。特に平成25年からは月2回、骨粗鬆症外来(要予約)を開始しており、診断・治療を行っております。整形外科的疾患の治療においては、リハビリテーションの比重が非常に高く、満足のいく機能回復を獲得するためには、適切なリハビリテーションの指導と実践が不可欠です。当院には理学療法士11名、作業療法士5名が常勤しており、医師とこれら専門のリハビリスタッフが一致協力して患者の病態とニーズに応じた最良のリハビリは何かを常に検討し治療を行っています。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | |
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午前 | 外来 | 外来 | 外来 | 外来 | 外来 |
午後 | 病棟回診 リハビリカンファレンス |
不定期手術 | 手術日 | 脊髄造影、神経根ブロック | 手術日 |
骨折・外傷 | 388 |
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手・肘 (スポーツ障害・外傷含む) |
194 |
腰椎 | 96 |
頸椎 | 41 |
胸椎 | 23 |
人工股関節全置換術 | 23 |
人工膝関節全置換術 | 6 |
その他 | 45 |
合計(件) | 890 |
医師紹介
統括診療部長
兼整形外科部長、リハビリテーション科医長、国立病院機構中国四国グループ参事(医療担当)
今田 英明(いまだ ひであき)
- 医学博士
- 臨床研修指導医
- 日本整形外科学会認定整形外科専門医
- 日本手外科学会認定手外科専門医
- 日本整形外科学会認定スポーツ医
- 日本手外科学会代議員
- 日本肘関節学会評議員
- 日本骨折治療学会評議員
- 日本整形外科学会上腕骨外側上顆炎ガイドライン策定委員会委員
- 広島野球障害検診(HYMEC) 運営委員会理事
- 広島ハンドクラブ世話人
- 西中国外傷治療研究会世話人
- 広島外傷治療研究会世話人
平成3年卒
平成15年10月より当センター勤務
専門分野:手・肘関節外科、外傷外科、スポーツ整形外科、マイクロサージャリー、リウマチ外科
医長 森 亮(もり りょう)
- 医学博士
- 日本整形外科学会認定整形外科専門医
平成13年卒
平成31年4月より当センター勤務
専門分野:股関節外科
医長 宇治郷 諭(うじごう さとし)
- 医学博士
- 日本整形外科学会整形外科専門医
- 脊椎脊髄外科専門医・指導医
平成17年卒
令和6年4月より当センター勤務
専門分野:脊椎脊髄外科、整形外科一般
医師 谷本 佳弘菜(たにもと かぐな)
- 日本整形外科学会整形外科専門医
平成25年卒
令和6年4月より当センター勤務
専門分野:手・肘関節外科
医師 井上 公博(いのうえ きみひろ)
平成31年卒
令和6年4月より当センター勤務
レジデント 福本 由美香(ふくもと ゆみか)
令和3年卒
令和3年4月より当センター勤務